風俗通いだけではないが、少子高齢化の縮図が見えてくる
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バツイチ風俗嬢の藤村綾です。 風俗嬢という仕事は私自身も裸になる仕事ですが、相手の男性の心も裸にさせるお仕事なのです。 “心を裸にする”。人間はなかなか心を剥き出しにはできません。それがどうでしょう、肌を重ねた安心からなのか、風俗嬢には心を許してしまう男性がいます。 風俗にハマり、身も心も崩壊してしまった男性、中田さん（仮名）のお話しをしたいと思います。 「お願いだから、風俗嬢をやめてくれ！」と懇願するお客さん 「え？ また、中田さん？」 あたしは店長に、「もう中田さんのところには行きたくない」と文句を言った。 結構な割合で呼んでくれる常連さんだったが、つい3日前呼んでくれたときに、こう言われたのだ。 「なぁ、あや、俺が面倒を見るからデリヘル嬢をやめてくれないか。他の男がお前を触るとか、もう耐えられないんだよ」 あたしは、その口ぶりには嘘が混じっていると思った。 中田さんは、週に3回もあたしを呼んでいた。それも3時間のロングだ。あたしだけに大層なお金を散財している。お店側としては良客だと思っているし、あたしもお金のためだと割り切って接してきた。 それが、一変して「やめてほしい」という思いを吐露したのだ。 よくよく考えると、「お金がもうこれ以上続かないけれど、頻繁に格安で会いたい」、そういうことだ。このようなお客さんはよくいる。常連ぶっていつかは店外デートに持ち込み、お店に支払うよりも安いお金で遊べるようにならないかと考えている男性客。 借金して、精力剤まで飲みながら… 仕方がないので、これが最後だと思い、中田さんのところに行った。最後だと思いながら、泣く泣く接した。 けれども、我慢できなくなった私は、とうとう本音を聞いてみようと思った。 「なぜ、こんなにしょっちゅう、あたしを呼ぶの？ 確かに気に入ってくれているのは嬉しいけれど、理由がわからない」 中田さんは押し黙った。性欲には個人差もあるし、あたしがお小言を言う権利は皆目なく、大きなお世話だと言われてしまえばそれまでだ。中田さんは重い空気の中、顔をもたげ、口を開いた。 「あやのことが好きなのは本音。けれど、お金がないのも本当のところ。借金をして通っているのも事実、でも……」 そこまで言って、いったん口をつぐんだ。そして立ち上がり、鞄からなにかを取り出してきた。なんだろう？ 「これ、見て」 白い袋の中からピンク色の錠剤を見せられた。怪しげな薬だということは、一目見てわかった。あたしは出された薬を手にとってしげしげと見た。 「それ、精力剤なんだ。中国から取り寄せていて、もう10年以上前から飲んでいるんだよ」 「なぜそこまで？」 中田さんは続けた。その顔には覇気はまるでなかった。死んでいる顔だと思った。 「40歳のときから仕事のストレスがひどくて、風俗遊びを覚えた。以来、風俗に通っている時だけはストレスを感じずに平静になれるんだ。だから、気に入った風俗嬢がいると何度も呼んじゃうんだよ」 52歳・実家暮らしで、素人女性との経験はない 趣味もなく、52歳にもなって未だ独身。仕事は休まず行くが、いつまでたっても平社員。普通の女性と付き合ったことはなく、実家暮らしを続けている。 この男が唯一自分でいられる場所が風俗だったのだ。薬を使ってまで続けるさまは、まさに風俗依存症。あたしは言葉が見つからず天井を仰いだ。 風俗の世界でしか生きられない女がいる。 風俗の世界でしか相手をされない男がいる。 “性”という見えない欲望はときに愛おしく、ときに人生を狂わしてしまう。 ＜TEXT／藤村綾＞ （女子SPA！）こういう男性の話はチラホラ耳にする。 この男性のように、女性と接するのが極端に苦手な男性は意外に多い。 この記事に登場する男性は「いつまでたっても平社員」だから仕事はできないようだが、世の中には仕事もできて金もあるのに、素人女と付き合えない男がいる。 たとえば、こんな男だ。 寿司屋の若旦那で見栄えもいいし仕事もできる。店も繁盛している。 しかし、彼はもう10年以上も女性との接触がない。 寿司屋の常連客の中には若い女性も多いし、バイトの女の子も若い子がいる。町内会の付き合いで会合にも顔を出すが、そこにも若い女性がいる。 出会いのチャンスがないわけではないのだが、どういうわけか女性と縁がない。 かといって独身主義でもないし、アチラの気があるわけでもない。 ただ毎日仕事に明け暮れて、気が付くともう10年も女の体に触れていない。 しかし、そのことで別段焦りを感じることもない。 まるで男性の煩悩を超越したかのようだが、そういう人が実際にいる。 しかし、この記事に登場する男性は煩悩丸出しで風俗に入り浸りだ。 女性に縁がない男性の中には、こういうタイプのほうが多いのかもしれない。 50歳過ぎて独身で親と同居。 こういう人が、たいてい近所にひとりくらいはいる。 若い頃には結婚しろ結婚しろと口癖のように言っていた親も、50歳過ぎればあきらめて何も言わない。 若い時分はそれが嫌で実家に寄りつかなかった息子が、いつの間にか親と同居するようになり親もそれを黙認する。 そのほうが親も都合がいいからだ。 親は、高齢になるといろんなことが不自由になってくる。だから、息子が一緒に住んでくれるなら何かと心強い。 息子は息子で、実家に住めば家賃はかからない。 双方に利があって持ちつ持たれつの関係が成立する。 かくして、息子は50歳過ぎても嫁の来てもなく、風俗通いが続く。 そして、親もそのほうがありがたい。うっかり結婚でもされて、気の合わない女が嫁に来たら自分が苦労することになる。高齢の親にはもう嫁とバトルする元気はない。 息子は親の面倒を見ながら、ちゃんとその先のことを考えている。 坐して待てば、遠からず実家が自分のものになるのだから、もう絶対にそこを動こうとはしない。 この記事の男性も実家暮らしだから、親と同居しているわけだ。 高齢の親から見れば、自分の身の回りの世話をしてくれる孝行息子ということになるし、世間もそう見ている。 だから実家暮らしは男にとっても居心地がいい。 50歳過ぎて親と同居の独身男が増えるようなら、出生率は下がる一方だ。 一見何でもなさそうな記事の中に、日本の少子高齢化の縮図が見えてくる。 自分がいられる場所を見つけた男性は、風俗でアイデンティティを保っているかもしれない。 それはそれでいいのかもしれない。
